簡易罪数処理

罪数処理マニュアルを簡単に書いてみます(以下、常体で失礼します)。

 

思考の順番としては、1基本併合罪になることを押さえておき、2吸収・包括一罪になるか、3観念的競合・牽連犯になるか、という順番になる。ただ、2と3は同時並行的に行うことも多い。

 

 

1 併合罪

 

基本的には、複数の犯罪は併合罪になる。まず、これを押さえておく。

 

2 吸収関係、包括一罪、混合的包括一罪

(1)吸収とは、別の犯罪を成立させるまでもなく、その犯罪で法益侵害が包括評価されている場合に認められる。例えば、偽造通貨行使罪は詐欺罪を通常伴うことが想定されており詐欺罪独自の法益侵害が無いので、別途詐欺罪は(構成要件を満たしていたとしても)成立せず偽造通貨行使罪に吸収される。

このとき、法益侵害がちゃんと包括評価されているかに注意する必要がある。例えば、殺意を持って現住建造物に放火して死亡させた場合、現住建造物放火罪と別途に殺人罪が成立し、これは観念的競合となる。現住建造物放火罪それ自体は死刑を上限とする重い刑であるが、同罪はあくまで建造物それ自体と公共危険を保護法益とする犯罪であり、故意行為による生命侵害については殺人罪の守備範囲になるということである。

(いわゆる法条競合もここに含まれる)

 

(2)包括一罪は、一見、自然観察的に見れば別の複数の犯罪が成立するように見えるが、実質的に見れば一個の犯罪行為として評価していいような場合をいう。これを明示的に定めた根拠条文は存在しないが一般に認められている。

よく例として挙げられるのは、被害者宅から物を盗むのに何回かに分けて運び出した場合である。この場合、自然観察的に見れば、窃取行為が複数あり窃盗罪が複数成立しているように見えるが、実質的に見れば複数の窃盗罪を成立させて併合罪にするのは妥当でない。

包括一罪は、意思・行為の同一性や法益の共通性などから判断されると言われる。

 

(3)混合的包括一罪とは、異なる罪名にまたがるけど、行為の共通性や侵害法益の共通性から併合罪ではなく包括一罪として評価する場合をいう。罪名が複数あるから「混合的」と付けられている。

これは財産犯で認められることが多い。

例えば、一つの財物奪取に向けられて欺罔行為による財物交付移転が失敗して、別途強盗罪で財物奪取を完遂した場合、その財物という同一の法益侵害(危険)しかないから併合罪で評価する必要まではない。そこで、詐欺未遂罪と強盗罪の混合的包括一罪となる。

(ただし、意思の共通性として、詐欺罪を失敗した場合は強盗に切り替えるという当初からの計画の存在が前提になると思われる)

 

 

3 牽連犯、観念的競合

 

次に手段・結果の関係にあれば牽連犯、同一の行為に複数の犯罪が成立するなら観念的競合になる。この場合重い方の罪の刑が課される。

牽連犯で注意すべきは、牽連犯になるかどうかは判例上認められているかどうかで決まるということである。

例えば脅迫を手段として監禁しても、当該事件では手段・結果として認められても、判例上認められていないから牽連犯とはならない。

判例はその犯罪が類型的・定型的に手段・結果の関係になるかどうかを重視している。

 

観念的競合は、自然観察的にみて一つである行為に二つ以上の犯罪が成立している場合をいう。2つ以上の犯罪が1つの行為に観念的に見れば競合しているから、観念的競合と名付けられている。

例えば、上で挙げた例で見れば殺意を持って住居を放火して人を殺害した場合は、現住建造物放火罪と殺人罪の観念的競合になる。放火という1つの行為に現住建造物放火罪と殺人罪が競合しているからである。

 

ちなみに、法条競合の場合は観念的競合とは異なり犯罪は1つしか成立していないので、競合しているのは法条だけである。

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