承継的共同正犯でどの説を取るべきか。

承継的共同正犯で、どの説を取るべきか、という悩ましい問題があります。

(「承継的共同正犯」なので、承継的幇助は置いておきます)

 

▷承継的共同正犯全面的否定説

まず、因果的共犯論を徹底する立場から、全ての構成要件該当行為に因果性が及んでなければならず、承継的共同正犯を全面的に否定する考え方があります。

しかし、この考え方は取らない方がいいと思います。なぜなら、平成29年に特殊詐欺の欺罔行為後に加担した受け子に詐欺罪の共同正犯を認めた最高裁判例が出たからです。

 

▷積極的利用の基準

受験上・実務上有力な先行者の行為を自己の犯罪として積極的に利用したか、という積極的利用の基準というのがありますが、これは「因果関係が及ぶことはない」という理由で共謀加担前に成立した傷害罪の承継的共同正犯を否定した平成24年判例(及び千葉裁判官の補足意見)が出てから下火になりました。

 

▷結果に因果性が及んでいればいいとする説(限定的肯定説)

そのあと、因果的共犯論の立場を維持しつつ、平成24年判例や平成29年判例を整合的に説明する説として、構成要件的結果に因果性が及んでいれば、全部の構成要件的行為に因果性を及ぼしていなくても承継的共同正犯が認められるとする学説が登場します(

受験生に好まれて使われている橋爪隆・刑法総論の悩みどころがこの立場です)。

 

▷積極的利用の基準の再評価

しかし、この限定的肯定説は実はそこまでオススメできません。

 

なぜなら、平成29年判例受け子に詐欺罪に共同正犯を認める際に、「因果関係を及ぼしているから」という因果的共犯論的な理由を一切使っていません

 

むしろ、平成29年判例は、後行の行為が「一体」となっているかどうか、「予定」されているかどうかを重視しています。

 

これは、積極的利用の基準と親和的な判示と言えるでしょう。逆に平成29年判例は、因果的共犯論と距離を取ったなどと評価されています(東大の樋口亮介教授など)。

 

ですので、最近では平成24年判例で下火になっていた、この積極的利用の基準を再評価する動きが出ています。

 

平成24年判例との整合性

この積極的利用の基準を使うのに気をつけないといけないのは平成24年判例と矛盾しないかです。

ただし、平成24年は傷害罪の事案で、後行者が加担したときに既に加担前の傷害罪は終了していた事案であると見ることができます(暴行ごとに傷害罪が一つ観念できますから、後行加担後の傷害罪は先行とは別の新たな傷害罪と言えます)。

ですので、平成24年判例は既に終了した犯罪についての事案のみについての判示であると、射程を限定することができます。

 

以上より、まだ終了していない財産犯(暴行脅迫後の強盗への加担や、詐欺の欺罔行為後の受領行為への加担)などへはこの積極的利用の基準を使用していいと思いますし、むしろ、無難なのではないかと思います。

 

(ちなみに、既遂に達した後にも承継的共同正犯を認めてもいいか、という論点もありますが、まだ決着がついていません)

 

以上、詳しくは法律時報の樋口亮介教授の複数の論稿が参考になります。