目的効果基準の死亡確認

目的効果基準孔子廟判決で死んだかという議論があります。

結論的には死んだとは言えませんし、あなたが受験生なら使えるように用意しておくと役に立ちます。

 

(私自身は基準で決着がつくようなものではないと思っているのでどっちでもいいのですが、受験生が勘違いしないように書いておきます)

少なくとも、「受験生は目的効果基準を使うべきでない」というのは誤りかと思います。使ってもいいし使わなくてもいいのです

 

▪️空知太神社事件判決が目的効果基準を使わなかった理由

まず、空知太判決が違憲となった理由はなんだと思いますか?

 

空知太判決で違憲となった行為は、神社を管理する氏子集団への土地の無償の提供行為です。

 

この違憲判断は、①何らの対価を得ることなく市の土地の上に神社を設置させていることが、氏子集団の宗教的活動を容易にさせているという理由です。

 

しかし、最高裁は、違憲という結論を出したものの、土地から神社を撤去させて明渡しさせるとすると、氏子集団の信教の自由に対する重大な不利益を与えることを危惧します。

 

最高裁は、そのような不利益を避けるために、土地を有償または無償で譲与して市有地上に神社が設置されている状態を解消する、もしくは、適正な価格で貸し付け①の状態を解消することでも違憲状態を解消できると言って、そのような方法を模索する審理をさせるために差し戻します。

 

しかし、この事案で仮に目的効果基準を使うとこれらの解消措置すらも宗教的目的かつ宗教活動の促進につながるので、違憲になってしまいます。

 

このように、空知太神社事件の事案では目的効果基準では使えません。

 

冨平神社事件は、すでに無償で譲与していて②を解消している事案ですから、合憲の結論が出ました。

 

▪️孔子廟事件判決も同じ事案類型

実はこの孔子廟事件もこの事案類型に属するといえます。

 

孔子廟判決は無償で貸していた事案ですから、潜在的には上記①②が問題となっています

 

(なぜなら、孔子廟判決は、(違憲状態解消のために)賃料を請求すべき、という結論を出していますが、潜在的には賃料を請求すればそれで済むのか撤去すべきではないか)ということが問題になるような事案なので、目的効果基準を使うとこの結論自体が、上記空知太事件で述べたのと同じように宗教目的を有し、宗教の促進につながるので違憲になってしまうおそれがあります)

 

したがって、この事案は空知太事件判決や冨平神社事件判決と同じ事案類型に属するということになります。

 

ですから、結局孔子廟判決が目的効果基準はそもそも使わなかったのではなく、使えなかったということができます。

 

ここまで整理すると

 

土地の提供には4種類あり→①無償で貸す、②有償で貸す、③無償で譲与、④有償で譲与

 

このうちどれが違憲でどれが適切かを考える事案では、空知太事件の総合考慮基準が使われるといえます(この考えをより進めたものとして、長谷部先生などの政教分離と信教の自由が衝突する場面ではこの総合考慮基準が使われるという考え方があります)。

 

 

今後の予想としては、最高裁は、愛媛玉串事件や白山比咩神社事件などの事案類型ではまた目的効果基準を使用するのではないかと予想されます。

 

以上、判例百選の空知太事件の長谷部解説や長谷部・憲法講話などが参考になります。

 

▪️超重要:答案作成の観点

私は以上のように考えますが、そもそも、今後目的効果基準は使われないという判例解釈自体が間違ってるとは思っていません。それも一つの有力な考え方です。調査官解説もそのような趣旨のことを述べているでしょう。

 

 

しかし、目的効果基準を試験で使うべきでないと情報発信している合格者を見かけますが、これはナンセンスでしょう。判例解釈としてはどちらも成り立ちます。どちらも間違っていません。ですから、どっちを使ってもいいのです。

 

今どっちを使ってもいいと言いましたが、はっきり言って、空知太事件の総合考慮基準一本で行くことはオススメしません目的効果基準も使えるようにしましょう

 

なぜなら、愛媛玉串や白山ひめのような事案類型に当たったときに、論文試験にせよ実務で裁判所に書面を出すにせよ、総合考慮基準の方が書きやすいと思っているのでしょうか

 

このような事案類型が出たとき、代表的な先例が目的効果基準を使って目的と効果に当てはめている以上、起案する人もそれに乗っからないと説得的な議論はしにくいはずです。

 

総合考慮基準の中で目的効果に当てはめればいいとお考えかもしれませんが、総合考慮基準の考慮要素には目的効果は例示列挙されていませんから、総合考慮基準を立てて目的効果に当てはめるにしても、例示列挙されている要素に当てはめず、例示列挙にされていない目的及び効果という要素に当てはめるという論証をするつもりでしょうか。

 

ですから、目的効果基準を使った方が先例を考慮した説得的な議論をしやすい場合があるので、その時に使えるようにした方がいいという話です。

 

そもそも、目的効果基準が使われた事案と総合考慮基準が使われた判決を比べればわかりますが、最高裁は信教の自由の確保という制度の根本目的から相当と言えるか、という判断枠組みを事案に即した形で具体化したものとして、目的と効果を審査する目的効果基準というものを使っていますし、空知太事件では上記で述べたようにそれが事案に即さないからチェックリスト方式の総合考慮基準を使っているのです。

 

*ただ、目的効果基準が使われた判例の中身を追っていくと、中身が目的および効果を考慮要素とした総合考慮型の審査に近づいているとも捉えられるので、「目的及び効果を考慮して、制度の根本目的との関係で相当と言えるか」という趣旨の判断枠組みを使って起案することは現実的に考えられます。
この場合の基準の実態は、かかわり合いの相当性を実質的に審査することからレーモン・テストにかなり近づくと思われます。

 

ですから、目的と効果を主に審査すべき事案では総合考慮基準ではなく目的効果基準を使うということは予想されます。実務でもそのように主張していくのではないかと予想します。

 

ではなぜ目的効果基準が破棄されたという議論がこんなに盛り上がってるかというと、そもそも目的効果基準の評判が良くないので破棄されるべきだ、という考え方が背景にあると思います。

 

答案作成の際は、どちらを使うべきかについて詳しく論じる必要はないと思います。

一言触れてもいいし、しれっとどっちかで書いても大差はないと思います。

 

▪️神戸高専事件の類型ではどうか

同じように政教分離と信教の自由の衝突が問題となった神戸高専事件では、剣道受講の代替措置について目的効果基準を使っています

土地の提供ではないこのような事案類型でも今後も目的効果基準を使うのででしょうか。

 

これについては分からないということになります。

 

ただ、目的効果基準をすでに同判決で使って合憲判断を出していますから、そのまま使うことも十分あり得ます。

 

 

(余談ですが、とある答練で目的効果基準か総合考慮基準かを争わせる問題が出たという投稿を見た気がするが、試験問題としては論外でしょう

基準が決着を左右するような性質のものではないので、実際の訴訟でどちらの基準を使うべきかがメインの争点になることはないと思います

試験問題としては、当てはめの精度を見るべきです)